第一話:財政は改善した。ーその前提は何かー

経済財政諮問会議「中長期試算」を読む

経済財政諮問会議で示された中長期試算は、明確なメッセージを持っている。
財政は改善している
成長すれば債務は安定する
金利上昇は吸収可能である

数字としては、その通りに見える。

しかし重要なのは、その構造である。
本稿では、提示された4つの図を整理し、その前提まで踏み込んで確認する。

1つ目の図:基礎的収支の改善
最初の図は、利払いを除いた基礎的財政収支(PB)の推移。
コロナ期に大幅赤字となった後、急速に回復し、
2026年度:▲0.1%(ほぼ均衡)
2027年度:+0.6%(成長移行ケース) と黒字化が見込まれている。

2035年度には、
成長移行ケース:+1.8%程度
過去投影ケース:+0.8%程度 という差がつく。
つまり、 成長が強いほど、収支改善も強まる設計 になっている。

ただし、この黒字は「利払いを除いた」ものだ。
財政全体の均衡を意味するわけではない。

2つ目の図:債務残高対GDP比
現在の債務残高はGDPの約186%。
将来は二つのケースに分かれる。

過去投影ケース:187%前後で横ばい
成長移行ケース:162%程度まで低下

ここで重要なのは、 債務の絶対額ではなく、
GDPという分母の伸びが決定的であることだ。
成長移行ケースでは、分母拡大が債務比率を押し下げる。

3つ目の図:長期推移と参照線
2001年度にPB目標を掲げて以降の長期推移を見ると、
今回の改善幅は確かに大きい。

図中には赤い点線(▲1.3%前後)が示されているが、
これは過去の基準水準を示す参照線と考えられる。
今回の見通しはそれを上回る改善を示している。

ただし、PBは景気や税収の影響を強く受ける
一時的な税収増や名目成長の影響でも改善は起こり得る。
したがって、 改善の持続性は別途検証が必要 という前提は残る。

4つ目の図:債務比率の変化要因
今回の資料で最も重要なのが、この分解図である。
債務比率の前年差は、
金利要因
成長率要因
基礎的収支要因 そ
の他 に分解されている。

成長移行ケースでは、
成長とPB黒字が金利上昇の押し上げを上回る設計になっている。
これはいわゆる 実効金利と名目成長率の差(r − g) の視覚化である。

gがrを上回れば比率は低下しやすい。
rがgを上回れば不安定化する。

成長移行ケースの前提
ここで重要なのは、成長移行ケースの具体的想定である。

内閣府試算では、
実質成長率:2%程度
名目成長率:3%程度 を前提としている。
これは日本の潜在成長率(1%前後とされる)を上回る水準
である。

この達成可能性が、試算全体の持続性を左右する。
税収増の構造
今回のPB改善を支えた最大の要因は税収増である。

近年の税収増は、
法人税の増加
消費税の増加 の寄与が大きい。

これが
実質的な企業収益拡大によるものか
名目拡大(物価上昇)によるものか
制度要因や負担増によるものか
によって評価は変わる。

この点は、次回以降で検証すべき核心部分である。

金利要因の拡大リスク図4では、金利要因の押し上げ寄与が年々拡大している。
成長移行ケースでも、金利の影響は無視できない水準に向かう。
日銀の政策正常化が想定より速く進めば、
金利要因が成長要因を上回る局面も理論上はあり得る。
試算は「緩やかな金利上昇」を前提としている。
この前提への感度は、今後の重要な論点である。

結論:改善は確認できる。
しかしシナリオ依存である 今回の4つの図から、
基礎的収支は改善している
成長が続けば債務比率は低下し得る
金利上昇は織り込まれている ことは確認できる。
しかし、 この構図は 実質2%・名目3%成長が持続する
という前提の上に成り立っている。
さらに、
税収増の質
成長の中身
金利上昇のペース
によって持続性は左右される。

本稿は財政改善を否定するものではない。
だが、 その改善はシナリオ依存である という点は明確にしておく必要がある。

次回は、GDP速報や賃金・税収の内訳を確認し、
この前提が現実に裏付けられているのかを検証する。

財政改善は出発点であり、結論ではない。


参考資料:内閣府
中長期の経済財政に関する試算(令和8年1月22日経済財政諮問会議提出)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/shisan/2601hontai.pdf


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